DCTとは? 医療業界で注目の新たな治験の手法を解説
- 2025.01.31
- 診断・治療
- ウェルネスの空 編集部
医療機関に来院しない治験、DCT(分散型臨床試験)は、世界的に見れば増加しているものの、日本ではまだ浸透しているとは言えません。本記事では、DCTの治験参加者・製薬会社・医療機関にとってのメリットや、日本でのスムーズな運用のためには何が必要なのかを解説します。
DCT(分散型臨床試験)とは
DCTとは、分散型臨床試験のことで、Decentralized Clinical Trialの略称です。治験参加者は医療機関に行く必要はなく、デジタルデバイスや薬の配達などを利用して臨床試験に参加できます。DCTによる治験では、スマートフォンやウェアラブル端末などを利用し、医療機関以外の場所でも臨床試験のデータを収集することが可能です。治験参加者はオンライン診療を利用して、自宅に居続けながら治験に参加できます。通院のための治験参加者の負担を減らせるなど、メリットの大きい方法です。
DCTが新たな治験の手法として注目されている背景
製薬会社によるDCTの初の試みは、2011年のファイザー社によるリモート試験だったとされています。モバイルデバイスを使用した電子日誌による評価が行われました。近年では、製薬業界でのDXの加速や新型コロナウイルスの感染拡大を背景とした治験参加者ニーズの変化があり、世界では実施が増加しています。日本でも徐々に取り組みが進んでおり、新しい治験の手法として注目を集めています。
DCTでは、オンライン上で臨床試験を実施しデータを収集するため、さまざまな状況にある治験参加者が治験に参加しやすくなります。加えて、AIが得られたデータを扱い、試験の設計に関与することで、データをさらに効率よく活用できるようになりました。また、システムを利用することで医療に関わるアクター間でデータを共有することが容易になり、予防医療、介護、保険など、異業種間でもスムーズな連携も可能です。
DCTのメリット
近年大きな期待が寄せられているDCTのメリットは、以下の3点です。
治験参加者の負担が少なくなり集まりやすくなる
治験参加者にとってのメリットは、時間的な負担が減ることはもちろん、とりわけ、重い疾患を抱えている患者さんや高齢の患者さんにとっては、移動しなくてもよいことです。また、医療機関に出向く治験に比べて多くの人が気軽に参加できるようになるため、治験を行う側にとっても、治験参加者を集めやすくなるメリットがあります。
治験全体のコストの削減ができる
製薬企業にとっては、治験全体のコスト削減が図れることがメリットです。コスト削減につながる理由として、治験参加者の募集を効率よく行えること、治験にかかる期間を短くできることなどが挙げられます。日本での治験のコストが削減されれば、海外の企業が日本で治験を実施しやすくなり、日本が国際共同治験に参加する機会も増大すると考えられます。その結果、ドラッグ・ラグ(海外で承認されている医薬品が日本で承認されるまで時間差があること)が解消していけば、患者さんにとってもメリットとなるでしょう。
観察の精度が向上し、治験データの活用可能性が広がる
DCTの治験ではデジタルデバイスを利用するため、データを手入力することが減ります。それにより、ヒューマンエラーを減少でき、医療機関にとってメリットがあります。また、企業はリアルタイムなデータにアクセスできるため、データをより活用しやすくなります。
DCTで利用されるウェアラブルデバイスは、治験参加者が日常生活を送りながらデータを取得するため、医療機関ではなく普段の状況におけるデータを収集でき、治験の精度を上げられます。また、詳細なデータを継続して収集でき、日々移り変わる治験参加者の症状の推移を正確に把握することを可能にし、医療開発への貢献が期待できます。
DCTがなかなか進まない理由
日本でDCTが進みにくい理由として、治験参加者側の知識不足が挙げられます。現状、治験参加者が治験についての情報を知るきっかけは、通院時の医師からの紹介が中心です。
医療機関側にも課題があります。リモートモニタリングの経験が不足しており、オンラインで患者に説明したり、同意を得たりなど、DCTに必要なノウハウが不十分であるという点です。その理由のひとつに、現行の法令やガイドラインがDCTにどの程度適用されるかが長らく明確にされていなかったため、実施に踏み切るのが難しかったという事情もあります。
DCT導入を成功させるための運用のポイント
上記のような課題を乗り越えて、日本でうまく運用していくためには以下の3つのポイントを押さえる必要があります。
日本独自の運用フローを構築できるようにする
日本での運用を成功させるためには、日本固有の医療システムや慣習に合わせた治験の運用フローを組み立てることが必要です。日本には、海外とは異なる規制や医療体制、保険制度があり、それらに即したフローの構築が求められます。また、日本の医療現場では今もなお紙が主体の領域が多いという事情もあります。
規制緩和にも対応できるようにする
現在、厚生労働省を中心に国としてDCTを推進しており、それにともなって関連する法令や規制の整備が進められています。
参照元:厚生労働省医政局研究開発政策課「臨床研究中核病院の承認要件見直しについて」 ※P5をご参照
また、オンラインでの同意についても、2023年(令和5年)に厚生労働省が「e-consent」のガイダンスを初めて発表し、本人確認の方法などを提示しています。
参照元:松倉裕二「分散化臨床試験(DCT)に関連する規制動向について ―e-consent ガイダンスを中心に―」
※P 3(P213)をご参照ください。
今後規制が緩和され、DCTを実施しやすい環境が整う見込みが高いと考えられます。それを見越して、規制緩和に柔軟に対応できる日本独自の形で運用のフローを構築することが望まれます。
手厚いサポートがあり操作しやすいシステムを導入する
日本の医療機関ではいまだ多くの紙文書が使われていますが、DCTを運用していくためには、システム導入が欠かせません。特に、医療機関と治験参加者の双方に対して手厚いサポートがあるシステムを利用する必要があります。また、治験参加者に寄り添った対応も不可欠です。治験参加者のためのヘルプデスクなど、安心して端末を利用してもらうためのサポートの有無も確認しましょう。
操作が簡単であることも、DCTの運用をスムーズに行うために必要な要素です。デジタルデバイスに不慣れな医療従事者や患者さんがいることも想定し、できるだけわかりやすいシステムを選ぶなら、導入や実施のハードルを下げられるでしょう。
まとめ
DCTは分散型臨床試験とも呼ばれ、治験参加者が医療機関に行かなくてもデジタルデバイスなどを利用して参加できる治験のことです。治験参加者の負担、治験にかかるコストを減らすなどメリットの多いものですが、日本での実施にはまだハードルもあります。スムーズな運用には、日本独自の制度や慣習に対応した運用フローの構築や、今後の規制緩和への対応が必要です。
DCTのスムーズな導入には、DCTサービスの利用がおすすめです。「MiROHA」は、オンライン診療と「e-consent」の支援を行うサービスです。デジタルデバイスの管理やサポートを行うサービスと併用することで、DCTの全体にわたるサポートを受けられます。また、患者様へ治験に関する正しい情報を理解していただくための治験情報サイト「チケモ(治験ポータルサイト)」も役立ちます。さらに、DCTに対応する訪問看護ステーションを紹介する「訪問看護支援ポータルサイト」も今後充実していく予定です。
参考記事:ベルシステム24、DCTトータルでの支援サービスの一つとしてMICINのDCTプラットフォーム「MiROHA(ミロハ)」を利用したDCTサポートサービスを提供開始 | 株式会社ベルシステム24
参考記事:ベルシステム24、DCT普及を目的に、製薬企業と生活者を繋ぐ治験ポータルサイトを開設 | 株式会社ベルシステム24
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