企業が健康経営に取り組む意義
- 2023.03.09
- 健康維持・増進
- ウェルネスの空 編集部
健康経営®とは、企業が従業員の健康管理を経営的な課題ととらえ戦略的・計画的に取り組む経営手法と定義されています。企業が従業員の健康保持・増進に取り組むことで従業員の健康増進、活力向上をもたらし、結果的に業績向上や企業価値向上へ繋がることが期待されます。ここでは、企業が健康経営に取り組むことで従業員の健康状態がどの程度改善できるのか、離職率などの業務パフォーマンスとの関係、さらには就活生や株主といったステークホルダーからみた企業の評価といった話題を取り上げます。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
健康経営の取組みと効果の流れ
最初に、企業の健康経営の取組みがどういう流れで効果として現れてくるのかを具体的にみてみましょう。健診受診率やストレスチェック実施率などの健康経営の指標に取り組むことで適正体重の維持や血圧リスクを下げるといった成果、つまりアウトカムに関するデータが収集されています。また、株価や企業の時価総額といった企業価値についても算出することができます。一方、アブセンティーイズムなどの業務パフォーマンスは現在のところ健康経営度調査で収集していない情報ですが、政府の健康投資ワーキンググループは健康経営の実践による従業員の業務パフォーマンスを評価・分析する必要があるとしています。
図1健康経営の効果が現れるフロー
参照元:「経済産業省 令和4年6月公表 健康経営の推進について」を元に作成
次に、健康経営と健康状態の関係について見てみましょう。東京大学が大企業を対象に健康経営度調査の総合得点を高スコア群、低スコア群に分類し健康経営度調査の結果と健康状態の関係性について調査したところ、高スコア群は体重増加リスクやメタボリックシンドロームの該当率が低いなど、生活習慣関連のリスクが低いことが明らかとなりました。また、年間医療費を比較したところ、低スコア群では医療費が高いことも示されています。つまり、企業が健康経営を実践することが健康状態の改善や医療費の削減といった成果、アウトカムに繋がっていることが示唆されています。
図2健康経営と健康状態の関係性
参照元:「経済産業省 令和4年6月公表 健康経営の推進について」を元に作成
健康経営の実践による従業員の業務パフォーマンスとの関係
続いて、政府が注目している健康経営の実践による従業員の業務パフォーマンスとの関係についてみていきましょう。
まず、業務パフォーマンスに関する用語とその意味についてご紹介します。
- プレゼンティーイズム:何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し何らかの体調不良があるまま働いている状態
- アブセンティーイズム:病欠や休職など勤務ができていない状態。
- ワーク・エンゲイジメント:仕事に関連するポジティブで充実した心理状態として「仕事から活力を得ていきいきとしている、活力」、「仕事に誇りとやりがいを感じている、熱意」、「仕事に熱心に取り組んでいる、没頭」の3つが揃った状態。
プレゼンティーイズムが企業の健康関連コストにどのような影響を与えるのかを見てみましょう。健康経営と聞くと勤怠管理上目に見えるアブセンティーズムに注目しがちですが、実は、プレゼンティーイズムのほうが企業の生産性を大きく損ねているといわれます。
米国の調査によれば、企業の健康関連総コストのうちプレゼンティーイズムによる労働生産性損失コストが77.9%を占めるとの結果が報告されており、コストの側面から企業の生産性向上を阻害する大きな要因と指摘しています。日々の健康管理は従業員本人に任せるべきとの意見もありますが、従業員のプレゼンティーイズムを解消して企業の生産性を上げるためには、企業の積極的な取り組みが重要になることがお分かりいただけると思います。
図3 プレゼンティーイズムが占める健康関連コスト
参照元:「経済産業省 企業の健康経営ガイドブック」を元に作成
ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に関連するポジティブで充実した活力、熱意、没頭の3つが揃った状態を意味しており、前向きな職場環境を推進するものとして注目されています。従業員のメンタル面の健康度を示す定義としては、ワーク・エンゲイジメント以外にバーンアウト、ワーカホリズム、職務満足感という4つの事象があり、「活動水準」「仕事への態度・認知」の2つの軸から説明されています。
- バーンアウト:仕事に献身的に没頭したにもかかわらず本人が期待した結果が得られないといった不満感・疲労感が生じ意欲を喪失してしまう状態。燃え尽き症候群」とも呼ぶ。
- ワーカホリズム:「強迫的に働く状態」を意味し、他のなにかを犠牲にしても仕事を終わらせなくてはならない、次にすべき仕事のことが頭から離れない、など常に仕事に追い立てられている状態。
- 職務満足感:仕事への態度は肯定的ですが活動水準が低い状態。ワーク・エンゲイジメントは仕事に取り組んでいるときの感情を指すが、職務満足度は仕事そのものに対してポジティブな心理状態を指す。
図4「活動水準」「仕事への態度・認知を用いた概念」
参照元:「厚生労働省 令和元年版労働経済の分析」を元に作成
一般にワーク・エンゲイジメントの高さは、離職率の低さ、個人の労働生産性、仕事に対する自発性や他の従業員に対する積極的な支援などと正の相関があるとされています。ワーカホリズムが長く続くと心身に悪影響を与える可能性があり、ワーク・エンゲイジメントの高い労働者がワーカホリズムな労働者に陥らないよう、企業はマネジメントしていくことが重要とされています。
健康経営の実践による効果
健康経営と離職率の関係についてみてみましょう。企業がアブセンティーイズムやプレゼンティーイズムの改善やワーク・エンゲイジメントの実践といった業務パフォーマンスの改善を図ることで、従業員の満足度やモチベーションの向上、さらには離職率の低下につながることが期待されています。離職率に関して健康経営に取り組む企業と一般企業と比較した調査によれば、2020年における全国の一般労働者の離職率は10.7%ですが、健康経営度調査に回答した企業や健康経営優良法人2022に選定された企業は約5%と半減、さらに、健康経営銘柄2022に選定された企業は2.5%と平均の4分の1に減少しており、健康経営度の高い企業は離職率が低い傾向にあることが示されています。
図5 健康経営と離職率の関係
参照元:「経済産業省 令和4年6月公表 健康経営の推進について」を元に作成
健康経営と企業価値について、健康経営銘柄2021に選定された企業の平均株価をTOPIXの推移と比較すると、健康経営銘柄に選定された企業の株価はTOPIXを上回る状況で推移しています。健康経営優良法人に選定されたことでステークホルダーから評価され株価が上昇したという見方もできますが、企業が健康経営に取り組むことで従業員の業務パフォーマンスが向上し、企業の業績が向上、株価が上昇したという見方もできます。
健康経営に取り組むことで従業員だけでなく、就活生やその親に対して、高い関心、良い印象を与えるとの調査結果が報告されています。就活生とその親を対象としたアンケート結果を見ると、将来どのような企業に就職したいかについて就活生に質問した結果では、「福利厚生が充実している」の次に「従業員の健康や働き方に配慮している」との結果でした。
また、就活生の親にどのような企業に就職させたいかを質問した結果では、「従業員の健康や働き方に配慮している」が最も多い結果でした。就活生は就職に当たり親の意見を参考にすると回答した割合が7割を占めており、就職企業を選ぶ際の決め手となる親に対するインパクトが非常に大きいと言えます。なお、この調査報告は今から7年前の2016年であり、現在はもっと健康経営に取り組む企業への関心・印象は高いものと思われます。
図6 就活生からみた健康経営に取り組む企業の評価
参照元:「経済産業省 令和4年6月公表 健康経営の推進について」を元に作成
健康経営に関するメディアの関心も高まっています。健康経営に関する記事掲載数等のメディア露出度を調査したところ、健康経営銘柄制度を発表した2015年から露出が増加、顕彰制度発表の度に露出が増加しておりメディアの関心が高まっていることがうかがえます。
まとめ
企業が健康経営に取り組み実践していくことで、従業員の業務パフォーマンスの改善につながり、それが就活生やその親御さんへの高い関心・良い印象に繋がります。また、健康経営に取り組むことでビジネスパートナーからの信頼が高まり、消費者の商品・サービスの購入の際の一つの選考理由に繋がることが考えられます。企業価値が高まることで金融機関や投資家からの評価が高まり、それが株価を引き上げるといった好循環に繋がることが期待できます。
図7ステークホルダーとの関係における「健康経営」のメリット
参照元:「経済産業省 令和4年6月公表 健康経営の推進について」を元に作成
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