人的資本情報の開示が必要となる背景と19の項目、取り組みのポイント

2023年3月期より、上場企業など一部の企業で人的資本情報開示が義務化されます。人的資本への注目度が世界的な高まりを見せる昨今、人的資本の情報開示は日本企業が取り組むべき重要な課題です。

本記事では、人的資本とは何を指すのか、情報開示が求められる背景、情報開示推奨の19項目、開示を行う際のポイントなど、詳しく解説します。

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人的資本情報の開示が必要となる背景

人的資本情報の開示が必要となった背景には、今まで「モノ」「カネ」が重視されていた市場の意識が「ヒト(人的資本)」へフォーカスされつつあるという流れがあります。なぜ人的資本は注目を集めるようになったのでしょうか。

人的資本とは

「人的資本」とは、ヒトが持つ能力を資本とする考え方です。能力とは知識・技術・資格・意欲・属性などが該当します。「資本」であるため、投資して価値を上げるべき存在として認識されます。

従来、ヒトは「人的資源」として消費されるという考え方が一般的でした。いわばコストです。しかし昨今では変化が生まれ、「人的資本」が注目されています。

近年の市場では「モノ・カネ」といった有形財産だけではなく、ヒトが持つ知的財産(無形財産)に重きを置く風潮が生まれ、浸透しはじめました。ヒトが持つ能力こそが企業の財産であり、価値であり、競争力を生み出すという考え方です。

内閣官房が2022年に「人的資本可視化指針」を策定

2022年、内閣官房は「人的資本可視化指針」を策定しました。人的資本への投資に関するガイドラインです。「人的資本を可視化すること、また、その方法」「可視化へのプロセス」が示されています。

内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局 「人的資本可視化指針」(案)に対するパブリックコメントの結果の公示及び同指針の策定について

このような指針が公表された経緯には、ビジネスモデルにおける人的資本の価値の向上やESG投資への関心の高まりが関わっています。

2022年5月には経済産業省より「人材版伊藤レポート2.0」が公開されました。経営戦略に人材戦略を連動させる具体的な提案が記載されています。

経済産業省 「人材版伊藤レポート2.0」を取りまとめました

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情報開示が求められる19の項目

人的資本可視化指針で情報開示が求められるのは19の項目です。項目は複数のカテゴリーに分かれ、19の項目がそれぞれに分類されています。

【人材育成】
「リーダーシップ」「育成」「スキル/経験」が該当します。人材の育成と確保についての項目です。

【エンゲージメント】
「従業員満足度」です。労働環境や従業員の業務内容などについて重視されます。

【流動性】
「採用」「維持」「サクセッション」が該当します。離職率や定着率などから適切な人材確保ができているかを判断します。

【多様性】
「ダイバーシティ」「非差別」「育児休業」が該当します。幅広いアイデンティティに柔軟な対応ができているか、産休・育休の取得率が適切であるかが問われます。

【健康・安全】
「精神的健康」「身体的健康」「安全」が該当します。欠勤率や労災の発生率について評価される項目です。

【労働慣行】
「労働慣行」「児童労働/強制労働」「賃金の公正性」「福利厚生」「組合との関係」が該当します。法令遵守・給与の男女差・福利厚生の充実・組合関連が見られます。

【コンプライアンス・倫理】
「法令遵守」が該当します。遵法精神やハラスメント対策の指標です。

人的資本の情報開示を行う際のポイント

人的資本の情報開示を行う際、押さえておくべきポイントは情報の整理と分析です。開示した情報がステークホルダーに与える印象を考慮する必要もあります。

自社の人的資本や人事戦略を整理する

最初に自社の存在意義や使命を整理することにより、自社の目的に沿ったビジョンが見えてきます。明確になったビジョンは事業戦略の決定に大きな役割を果たし、自社が必要とする人材戦略の策定につながるでしょう。

事業戦略ではKPIの意識も有益です。ビジョンに効果的なKPIを設定し、達成を目指す姿勢は企業に成長をもたらします。

KPIの達成まで試行錯誤を繰り返すことによって生まれるのは「企業の取り組みとその結果」のストーリーです。開示する情報に説得力を与える要素になるでしょう。

戦略的に情報を開示する

情報はただ開示すればいいわけではありません。開示された情報を受け取ったステークホルダーの反応を意識する必要があります。

ESG投資の機運が高まる昨今、ステークホルダーのうち、特に投資家は財務情報以外に人的資本情報も求めます。投資家はネガティブな情報が多い企業への投資を避けるきらいがあるため、ポジティブな情報を効果的に開示できるような戦略を意識するべきでしょう。

また、ステークホルダーには自社の従業員も含まれます。自社がどのような取り組みをしており、その目標や達成率はどうなっているかといった情報を詳らかにすることによって、従業員の自社への理解が深まるでしょう。戦略によってはエンゲージメントを高める作用も期待できます。

人的資本の開示内容として、健康経営の推進も重要

人的資本の情報開示においては、健康経営®の推進も重要視されます。前述の【健康・安全】にある「精神的健康」「身体的健康」「安全」です。

人的資本の考え方が注目される今、従業員は投資対象と言っても過言ではありません。従業員の健康や安全は、投資対象の価値を高めることにつながります。企業価値向上のための土台になるでしょう。

また、個人の健康状況を適切に把握し、必要であれば改善する継続的な戦略は、企業のパフォーマンス向上にも役立ちます。

そのためには従業員の健康状態の可視化・健診受診率の向上を経営戦略のひとつとして組み込むことが重要です。健康相談や保健指導を通し、健康・安全に対するリテラシー向上を試みるのも有益でしょう。

また、その際にはウェルネスとの関わりも大切です。ウェルネスは「健康を基盤とし、より活き活きとした輝かしい人生を目指す志向や取り組み」を指しています。健康維持・増進、病気の予防・早期発見など、健康経営と親和性があるため、指針を決めやすいのではないでしょうか。

いずれもコストを要しますが、健康経営への投資として見れば決して無駄ではありません。従業員や企業のパフォーマンスの向上と人的資本の情報開示で得られるポジティブな効果を考えれば、必要経費と言っても過言ではないでしょう。

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

まとめ

人的資本情報の開示が義務付けられる流れの中、対象になる企業は準備が必要です。情報の公開方法を工夫すれば経営戦略のひとつにもなるため、企業のビジョンやKPIを設定し、効果を高められる情報を構築しましょう。

中でも健康経営は重要な事項です。人的資本である従業員に直結する項目でもあります。健康状態の可視化、健診受診率の向上など、積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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