2023年12月中旬から下旬にかけて24年度診療報酬改定の基本方針が公表、改定率が決定し、24年の年明からいよいよ個別改定項目の議論が始まります。本記事では基本方針の内容や改定率の概要について、製薬企業の方が知っておくべきポイントについて解説します。
24年度診療報酬改定、医療従事者の働き方改革の推進が重点課題に
2023年12月11日、2024年度診療報酬改定の基本方針が決定しました。毎回、診療報酬改定の基本方針は、▽「基本認識」と呼ばれる現在の医療を取り巻く状況を整理したもの、▽「基本的視点」と呼ばれる改定の方向性を定めたもの、▽項目に落とし込んだ「具体的方向性の例」から構成されています。この建付けに沿ってまとめられ、12月11日に発表された基本方針の概要がこちらの図になります。
図1 改定の「基本認識」「基本的視点」「具体的方向性」
次回改定は以下の4つの柱が示され、特に「人材確保・働き方改革の推進」が重点課題に掲げられています。
- 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進
- ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進
- 安心・安全で質の高い医療の推進
- 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上
前回2022年度改定では、「新興感染症等にも対応できる医療提供体制の構築など医療を取り巻く課題への対応」が大きくクローズアップされ、コロナ関連の診療報酬の新設に繋がりました。今回の改定では、2024年4月から開始される医師の時間外労働規制、いわゆる「医師の働き方改革」が開始されることを踏まえ、看護師等の医療関係者の人材を確保することで医師の労働時間の短縮を図り、働き方改革の推進を図ることが重点課題とされています。このように、診療報酬改定では毎回、喫緊の社会情勢や医療を取り巻く状況を踏まえた項目が取り上げられ、こうした課題を中心に診療報酬でどのように評価するのかについて協議され、最終的に点数化されるという流れになります。
ここから4つの柱についてもう少し詳しく見てみましょう。
まず、重点課題である「現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」では、▽医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取組、▽各職種がそれぞれの高い専門性を十分に発揮するための勤務環境の改善、タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進、▽業務の効率化に資するICTの利活用の推進、その他長時間労働などの厳しい勤務環境の改善に向けての取組の評価-等の具体的方向性が例示されています。「医師の働き方改革」を実現するためには医療機関全体としての効率化や、他職種も含めた勤務環境改善に取り組むことが不可欠です。この取り組みの具体的な手段として、複数の職種で業務を共同実施するタスク・シェアリング、医師の業務を他職種に移管するタスク・シフティングが注目されており、これまでも「医師事務作業補助体制加算」の点数を引き上げ、事務職員の配置を充実させ勤務医の業務負担を軽減する、夜間の看護配置に関する加算点数を引き上げる-といった診療報酬改定が行われてきました。次回改定においてもこうした点数の引き上げや充実を図っていく方向が決まっています。
人材確保について最も効果的な方法は、医師以外の医療従事者の給与を引き上げることが考えられますが、医療機関の収益の殆どは公定価格(診療報酬)であり、診療報酬を引き上げることは患者の負担増につながることから容易ではありません。今回どのような措置が講じられたのか、後述する改定率の中で解説します。
診療報酬改定と直接関係しませんが、4月以降病院は医師の労働時間の管理が求められるため、上司の指示命令がない、いわゆる“研鑽”は労働時間に該当しないとされています。診療ガイドラインについての勉強や新しい治療法や新薬についての勉強は「所定労働時間外に、上司の指示なく行う時間については、労働時間に該当しない」という考えが示されており、今後、時間外での製品説明会や医師との面談は難しくなることが考えられ、これまで以上に医師の働き方改革を踏まえた情報提供活動が求められます。
次に、「ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」では、▽医療DXの推進による医療情報の有効活用、遠隔医療の推進、▽生活に配慮した医療の推進など地域包括ケアシステムの深化・推進のための取組、▽リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進-等の具体的方向性が並んでいます。医療DXについては、▽サイバーセキュリティ対策、▽マイナンバーカードによる受診促進、▽電子処方箋の利活用-について議論が行われており、医療現場のコストをどこまで診療報酬上で評価するのかが注目されます。
3点目の「安心・安全で質の高い医療の推進」では、▽食材料費、光熱費をはじめとする物価高騰を踏まえた対応、▽患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価、▽アウトカムにも着目した評価の推進、▽重点的な対応が求められる分野への適切な評価、▽生活習慣病の増加等に対応する効果的・効率的な疾病管理及び重症化予防の取組推進-等の項目が挙げられています。食材料費、光熱費をはじめとする物価高騰を踏まえた対応では、近年の食材費の急騰を踏まえ、1994年以降据え置きとなっている入院時の食費について、患者負担を30円引き上げる方針が中医協・総会で了承され、改定率の中でも明記されています。
また、生活習慣病の増加等に対応する効果的・効率的な疾病管理及び重症化予防の取組推進では、特定疾患療養管理料、外来医療管理加算といった生活習慣病管理を評価する診療報酬の項目を再編統合することが中医協・総会で了承され、マイナス改定することが発表されています。
4点目、「効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」では、▽後発医薬品やバイオ後続品の使用促進、長期収載品の保険給付の在り方の見直し等、▽費用対効果評価制度の活用、▽ 市場実勢価格を踏まえた適正な評価-など、医薬品に関する項目が並びます。特に長期収載品に関しては、後発品との価格差の4分の1を患者負担とする「選定療養」の制度が今年10月から施行されることになりました。これによる医療費削減効果は24年度で180億円、25年度で420億円を見込んでおり、今改定の効率化の”目玉”として注目されます。また、バイオ後続品についても入院や外来の使用促進が進むような評価が行われることが決まっており、後発品を含めた先発品からの置き換えを進めていく方向性が示されています。
薬局においては、医療機関と同一の敷地にあるいわゆる“敷地内薬局”について、その医療機関の処方箋の受付がほとんどであり、独立性や国がすすめるかかりつけ薬局機能の推進の観点で問題であるとされ、敷地内薬局を持つ薬局グループ全体で低い調剤基本料を設定することや、その医療機関の処方箋料を引き下げるという方向性が中医協・総会で了承されています。今後敷地内薬局は他の医療機関からの処方箋を受付けたり、在宅医療への取り組みなど、その医療機関に依存しない応需体制が求められることになります。製薬企業に対し、近隣の医療や介護施設の情報や、これら施設と薬局との連携に関する取組みといった情報提供が求められるかもしれません。
24年度診療報酬改定、全体で0.12%引き下げ
次に、2023年12月20日に決定した改定率とその中身についてみてみましょう。診療報酬は技術やサービスに当たる「本体」と薬価や材料価格(薬価等)に分けられます。
まず本体は0.88%のプラス改定となりました。診療科別でみると、医科プラス0.52%、歯科プラス0.57%、調剤プラス0.16%で、医科︓⻭科︓調剤の⽐率は1︓1.1︓0.3となり、これまでの改定の比率が堅持された内容となっています。
ただし、プラス改定の中身を見ると、▽「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種の処遇改善」、つまり賃上げにプラス0.61%、▽「入院時の食費基準額の引き上げ」にプラス0.06%、▽「生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化」にマイナス0.25%-を充てることとされ、これらを除く「実質的な改定」は0.46%⦅0.88%-(0.61%+0.06%-0.25%)=0.46%⦆となります。さらに、「実質的な改定」プラス0.46%の中には、40歳未満の勤務医・勤務⻭科医・薬局の勤務薬剤師、事務職員、⻭科技⼯所に勤務する⻭科技⼯士などの賃上げ措置としてプラス0.28%が含まれており、残りの0.18%を使って点数の見直しが行われることになります。もちろん今までの点数も引上げ・引き下げといった見直しが行われますので、単純にプラス0.18%が上乗せになるわけではありません。
図2 改定率の内訳
「生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化」を巡っては、⽣活習慣病の管理を⾏う診療報酬として、「特定疾患療養管理料」、「生活習慣病管理料」、「地域包括診療料」-など多くの算定項目があり、中医協総会の中で整理合理化すべきとの指摘があり、今回のマイナス改定に至った経緯があります。200床以下の病院や診療所では大きな影響を受ける可能性があり、どのような整理統合が行われるか注目されます。高血圧や脂質異常症などの患者を多く受け持っておられる200床未満の病院や診療所の経営に影響することが考えられ、自社製品への処方に影響する可能性もあり、注意が必要です。
診療報酬を1%引き上げるためには、保険料や国費などが追加で4,800億円必要とされており、当然患者負担が増加することになります。一方、先に述べた通り、医療機関の収益の殆どは公定価格(診療報酬)であり、診療報酬を引き上げることは患者の負担増につながります。一方、医師以外の医療関係者の賃金は低く、23年の賃上げ率も全産業と比べて低い水準に留まっており、医療人材の確保が困難な状況が続くことで、地域医療提供体制の崩壊につながる可能性があります。今回、プラス改定となることで患者負担は増加しますが、その殆どを賃上げに充当することで、国民のある程度の納得も得られるのではないかと思われます。
なお、診療報酬における看護職員等の賃上げについては、中医協・診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」で昨年末から議論が始まっており、病院は「施設ごとに必要な賃上げ金額を算出し、施設の状況に応じた診療報酬を設定する」、診療所は「初診料・再診料などへ一律の上乗せを行う」方向で議論が進められています。
薬価等ですが、昨年実施された薬価調査に基づき、薬価はマイナス0.97%、材料価格はマイナス0.02%、合計マイナス1.00%の引き下げとなります。診療報酬本体のプラス0.88%と合わせるとマイナス0.12%の改定となります。しかし、実際には医療機関の実質プラスは0.18%、これに適正化のマイナス0.25%を合わせると本体はマイナス0.07%、これに薬価等を合わせると医療機関の実施的な改定はマイナス1.07%という見方もできます。
図3 診療報酬改定率の推移
まとめ
本体と薬価等を合わせた診療報酬はマイナス改定ですが、前述の通り項目によっては点数が上がるものや下がるものがあります。24年1月下旬に、点数などの数字が●となっている新旧の診療報酬改定の項目をまとめた「短冊」が公表されます。これをみればどの項目が新設されたのか、評価されるのか(点数が引上げ)、されないのか(点数が引き下げ、他の項目と統合、廃止)が分かります。改定の具体的な方向性を把握する上で重要な資料であり、是非目を通してください。
点数が入った「短冊」は24年2月上旬に公表されると思われます。
執筆者紹介
第1事業本部 営業企画部 マネージャー
業界経験を活かし、アウトソーシングの立場で、製薬企業の市販後サービスを中心に様々なニーズを踏まえた、最適なソリューションの提案、コンサルティング等の業務に携わる。診療報酬、医療制度、医薬品適正使用、情報提供のあり方等をテーマに業界誌に多数執筆、企業等での外部セミナー講師も担当。
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会・認定登録コンサルタント
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