介護業界におけるICT化の導入事例! 日本の導入率はどれくらい?
- 2023.03.20
- 予後・リハビリ・介護
- ウェルネスの空 編集部
デジタル技術が発展する中で「ICT」という言葉を耳にする機会が増えました。ICTとは「Information and Communication Technology」の略で、情報通信技術のことです。本記事では、介護現場におけるICT化の現状や導入メリット、導入事例、成功のコツについて解説します。
介護現場のICT化で解消が期待される課題
近年、日本の介護現場では、ICT化が進められています。その背景にあるのは、介護業界が抱える深刻な2つの課題です。
人材不足
少子高齢化が進む日本では、多くの企業で人材不足が叫ばれており、介護業界も例外ではありません。厚生労働省が令和3年7月に公表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、2025年度に約243万人、2040年度には約280万人の介護人材が必要になると推測されています。
しかし介護業界の現場では、身体的な負担が大きい、賃金が低いといった理由から人材は慢性的に不足しています。
(出典元:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02977.html)
過酷な労働環境
基本的に高齢の方であるとは言え、大人を相手にする介護の仕事は、身体的にも精神的にも負担の大きな仕事です。もともと介護職は夜勤や介助などによる身体的負担が大きい仕事ですが、人手不足を原因とする長時間労働がさらに負担を増大させています。次から次へとしなければならない対応に追われ、一息つくこともままならない労働が続けば、ミスが増えるなど、サービスの質が下がってきてしまうリスクがあります。
入居者や家族への対応、職場環境などを原因とする精神的な負担を抱えているスタッフも少なくありません。
介護業界のICT化導入率は?
こうした喫緊の課題を踏まえ、介護業界の各企業では、新しい取り組みとしてICT化を進めています。
公益財団法人介護労働安定センターが令和4年8月に公表した「令和3年度『介護労働実態調査』結果の概要について」によると、8,742事業所のうち、「パソコンで利用者情報(ケアプラン、介護記録等)を共有している」と回答した割合が 52.8%と昨年よりも2.4%高くなっています。
ほかにも、「記録から介護保険請求システムまで一括している」が 42.8%で昨年から3.7%増、「タブレット端末等で利用者情報(ケアプラン、介護記録等)を共有している」は28.6%で昨年から6.6%上昇しています。
パソコンのほかに誰でも簡単に操作しやすいタブレットなどのモバイルデバイスを活用することで、介護業界でもICT化が急速に進んでいることが分かるでしょう。
(出典元:令和3年度「介護労働実態調査」結果の概要について)
介護現場のICT化事例
実際に介護現場では、どのようにICTが活用されているのでしょうか。ここでは3つの事例を紹介します。
事例1. 見守りシステムの導入
通常、介護施設の利用者に何かトラブルが発生したとき、まずスタッフが早めに気付けるかどうかが重要です。しかし現実的にはスタッフの数に限りがあるなか、従来のアナログな方法では難しいこともあります。
見守りの対応に課題を抱える現場で導入されているのが、いわゆる「見守りシステム」です。利用者が過ごすベッドや壁にセンサーを取り付け、スタッフがすぐ近くにいなくても入居者の状態を把握できるのが特徴です。入居者の心拍数や呼吸数もチェックしており、万一状態が変動した場合はすぐに感知して、早期に対応できます。
事例2. 家族とのオンライン面会
新型コロナウイルス感染症の流行が始まって以降、介護現場では、利用者と家族との直接面会は禁止、あるいは規制されて困難な時期が長く続いています。
そこで直接会う代わりの手段として使われているのが「オンライン面会」です。介護施設内に無線LAN環境を整えることで、施設を訪れた家族との非対面での面会が可能になりました。またインターネット回線を使うことで離れて暮らす家族と気軽にオンラインでの面会を実現しています。
このように、コロナ禍によって介護現場のデジタル化やICT化が前進しているケースもあります。
事例3. 勤怠管理システムの導入
多くの介護現場ではこれまで、紙ベースのタイムカードなどによる勤怠管理を行っていました。しかし、紙ベースでは給与計算も手作業でするほかなく、ヒューマンエラーを防ぎきれません。時間もかかり非効率です。
勤怠管理にまつわる課題の解決策として導入されているのが「勤怠管理システム」です。スタッフのシフト表を自動で作成したり、煩雑になりがちな給与計算もスムーズに行えたりするため、事務作業の負担が軽減されています。
システムに任せれば、勤怠管理にかかる時間が大幅にカットでき、生産性が向上するほか、ペーパーレスによるコストカットも期待できます。
介護業界でICT化を行うメリット
介護業界の企業は、ICT化を進めるとさまざまなメリットを受けられます。
ICT化によってバラバラに分散していた情報やデータをまとめ、一元管理することで業務効率化を図れます。事務作業にかかる時間が減ることでスタッフの負担が軽減するでしょう。事務作業に費やしていた時間を利用者へのサービスに充てられるため、サービスの質も向上できます。
また、介護事業所は病院や訪問介護事業所などとのデータ連携が不可欠です。FAXなどの紙媒体や電話でのやり取りは連絡作業の手間がかかるうえに情報共有できるまでに時間差が生じます。FAXを誤って送信するなどすれば、個人情報の重大な情報ろうえいにつながるでしょう。
ICT化すれば各施設とリアルタイムでのデータ連携ができ、連絡作業の削減やスピーディーな情報共有が可能です。ヒューマンエラーによる情報ろうえいリスクも低減できます。
ICT化を成功させるコツ
介護現場でICT化を進めるには、一定のコストや時間がかかるため、二の足を踏んでいる事業所があるかもしれません。しかし、以下のポイントを押さえることで、ICT化による業務改善の成果を上げられるでしょう。
まず、どれほど素晴らしいツールを導入したとしても、うまく使いこなせなくては意味がありません。年代や経験値によっては、スマートフォンやタブレット、パソコンなどの操作が困難なスタッフもいるでしょう。そこで、必要に応じ、スタッフを介護システムやICT化について学べる研修を受講させるのも一案です。研修を受け実際に経験を積んでいくことで、介護システムに関する知識が身に付き、自由に使いこなせるようになります。
2つめは、介護システムの導入費用やランニングコストなどが適切かどうかを、効果と照らし合わせて確認することです。一般的にシステムの利用料は、介護サービス形態や利用者数などによって変動します。コストと効果のバランスが取れているか、複数のベンダーへ見積もりを依頼するなどして、より適切なシステムを選ぶことが大切です。
政府は介護現場におけるICTの利用を促進するべく、補助金制度を設置しています。たとえば介護に関する記録や情報共有に使う目的で、介護ソフトやタブレット端末を購入したり、通信環境を整えたりする際には、「地域医療介護総合確保基金」による支援を受けられる可能性があります。ICTの導入支援事業を展開している都道府県は、令和元年度に15県でしたが、令和3年度ではすべての都道府県で実施中です。こうした補助金制度もうまく活用すれば、ICT化をスムーズに進められるでしょう。
(出典元:https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-ict.html)
まとめ
少子高齢化が進む日本において、介護現場での人材需要は今後ますます増えていくでしょう。一方で、人的リソースだけではカバーしきれない事情も抱えています。そこで期待されているのが、業務効率化や生産性向上をかなえられる「ICT化」です。介護現場で必要な業務をデジタル化、自動化することで、現場スタッフの負担を大幅に軽減できる可能性があります。
また、介護状態をできるだけ予防するためには、定期的な健診の受診勧奨が欠かせません。
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