人への投資とは? 企業が人的資本に投資するメリット

現在、人材への投資を重視する人的資本経営が広まりつつあります。米国ではすでに、上場企業を対象に人的資本についての情報開示が義務付けられました。
日本でも人的資本経営への注目が高まり、重点投資分野として意識されるようになっています。本記事では、人的資本経営の施策やメリットなどについて解説します。

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人への投資とは? 人的資本経営の施策

人への投資とは、企業が社員・従業員に投資することです。人材を資本として投資するという考え方を取り入れた経営を、人的資本経営と呼びます。人的資本経営では、従業員のパフォーマンスを最大化するために投資が行われます。

かつて、人材は人的資本ではなく人的資源と呼ばれていました。資源は消費される存在であり、企業からすれば人材育成などに必要な経費はコスト扱いです。しかし、現在はその経費を「コスト」ではなく、「社員・従業員への投資」としてとらえる企業が増えています。

人材への投資は企業の価値を中長期的に高める効果があると言われています。投資によって社員の能力を向上させることが新たな価値を創造し、結果的に業績への貢献が見込めます。

人的資本経営は、長期的な成長を見込むESG投資をする投資家の間でも重要な要素として認識されています。
投資家の多くは企業情報をもとに投資先を決めますが、そこで人的資本の内容についても重視されるようになりました。「人材を使い捨てにしていないか」「労働者の権利をおろそかにしていないか」などの判断材料として、人材の情報を財務情報のように数値化することで、企業の方針がより具体的に可視化されます。
現在では、このような人的資本の情報を企業が開示する動きが進行しつつあり、それに伴って投資対象として高い評価を得るため、人的資本経営の導入が推進されていくと予想されます。

投資家の判断材料だけではなく、企業で働く従業員が自社についてより深く知る情報として有益です。人的資本経営とその情報開示は、多くのステークホルダーに影響を与えると考えられます。

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人への投資が重視されるようになった理由

人への投資が重視されるようになった理由には、「新しい資本主義」の考え方の推進、生産性、働き方の変遷など多くの要素が関わっています。

1980~2000年代は、経済界では主に「新自由主義」が主流でした。これは、市場での競争を促進することで社会全体での成長が見込めるという考え方です。確かに日本を含む世界経済は大きく成長しましたが、一方で経済的格差の拡大・気候変動問題・市場の失敗など多くの問題が生まれました。

その失敗や問題を是正するため、日本では現在「新しい資本主義」を掲げ、変革を試みています。そのなかでも、重点項目とされているのが人への投資です。

「新しい資本主義」では、生産性を高めるためには労働人材の流動化を進める必要があるとされます。人への投資により人材育成を強化し、キャリアアップのための転職を促進することが理想です。特に成長分野でありながら深刻な人手不足が起きているIT業界へ、十分な労働力が流入、分配されていくことが期待されます。

海外における人への投資

海外、特に欧米各国では日本よりも早く人への投資に取り組んでいます。開示される投資状況は、前述のようにESG投資における大きな指針です。
例えば、2020年には米国証券取引委員会が上場企業に対し、人への投資状況の情報開示を義務化しました。

情報開示に関しては、2018年に制定された「ISO30414」が国際的なガイドラインとされています。
「ISO30414」では、開示対象になる11領域49項目の情報を策定しています。コンプライアンスと倫理、ダイバーシティ、リーダーシップなど多数の項目にわたり、いずれも人的資本経営に必要とされる要素です。開示することによって企業の人的資本経営の状況が可視化され、ステークホルダーの判断材料として価値を発揮します。

日本でも人への投資に関する情報開示が進む

欧米だけではなく、日本でも人への投資に関する情報開示が進んでいます。
2021年には企業統治の原則であるコーポレートガバナンス・コードが改定され、企業の持続的成長・企業価値の中長期的向上が掲げられました。この改定では、人への投資やサステナビリティをはじめとした課題の解決が取り上げられています。
昨今はESG投資への影響も受け、人的資本に関する情報を財務数値にして公表し、可視化する企業が増加している状況です。

また、2022年には、内閣府がいわゆる「骨太の方針」と呼ばれる「経済財政運営と改革の基本方針2022」にて、重点投資分野として人的資本への投資を掲げています。
具体的には、人材のスキルアップや成長分野への移動を目的として、4,000億円規模の予算の投入が閣議決定されました。他にも多様な働き方の推進や質の高い教育の実現、賃上げなどが人への投資にかかわる内容として盛り込まれています。
このような政府による支援を受け、人的資本への投資が進んでいくことで、今後も情報開示に踏み出す企業は増えていくことが予想されます。

リンク参考URL:経済財政運営と改革の基本方針2022

企業による人への投資の例と、そのメリット

人への投資は経営者が主体的に関わり、経営戦略へと積極的に組み込む必要があります。業績向上につなげるため、従業員のエンゲージメントを高める施策がメリットを生むでしょう。多様性の包括・スキルアップ・賃金の上昇・ウェルネスの観点は特に重要です。

多様な働き方の許可

エンゲージメントが高まれば生産性の向上が期待できます。働きがいを感じられる環境の整備をはじめ、さまざまな特性や条件を抱えた従業員でも働きやすい職場の構築が必要です。

業種にもよりますが、テレワークの定着・兼業や副業などの職業選択の拡大・育児や介護事情へのフレキシブルな対応などが挙げられます。

訓練・研修の提供

従業員のスキルアップのため、リスキリング(学び直し)や職業訓練・研修が重要です。スキルアップは生産性の向上や労働人材の流動化につながります。そのためには従業員への育成のための投資、つまり「人への投資」が必要になるでしょう。
前述した骨太の方針における国の支援が得られる可能性もあります。

賃上げ

単純な賃上げも、人への投資として有効です。リスキリングや職業訓練・研修を充実させたとしても、待遇や職場環境への不満が原因で転職されるのは好ましくありません。
賃上げや職場環境の改善でエンゲージメントを上げれば、優秀な人材の不本意な流出を防ぐことができます。
持続的な企業の成長を目指すのであれば、人材に見合った賃金額を策定することは重要です。

健康経営の実施

健康管理の実施は快適な職場の構築やエンゲージメント向上につながります。従業員の健康維持や増進は、生産性の向上だけでなく、企業のイメージアップにも期待できます。

そのためには健康経営®指標などを参考に施策を取り入れ、取り組みや結果を社内外へと情報発信することが大切です。
例えば、病欠数の低下を目標として、感染症の予防注射の費用を会社が持つといった施策が考えられます。この際、その施策を従業員に周知されていなければ効果が見込めないため、経営陣が積極的に実施を推進しましょう。さらに、施策を行ったあとはそれ以前と比較して効果を測定します。
施策の目的や社内体制、具体的な取り組みと成果などを取りまとめて発表することで、投資家や顧客からのイメージアップにつながります。また、従業員が経営的な成果を知ることで、さらなる施策の周知や経営層への信頼向上も見込めるでしょう。

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

まとめ

人への投資と人的資本経営は今後の経済界で無視できないグローバルな流れです。適切に取り入れれば従業員のエンゲージメントを上げ、生産性の向上が期待できるとともに企業の価値を高めるでしょう。

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