広がる患者サポートプログラム、今後の展開は?

製品を使用する患者さんに対し、疾患や処方薬、治療に関する情報や、日常生活に関わる支援などを提供する患者サポートプログラム(Patient Support Program:PSP)、注射の仕方など患者さんからの問い合わせや資材の提供に留まらず、治療管理アプリ、デバイスやオンライン診療・服薬指導などを組み合わせたプラットフォームの構築、疾患啓発から治療に導く”広義のPSP”の取組みなど、製薬企業におけるPSPの取組みが盛んになっています。

デジタルヘルスとは 医療業界で注目の技術をわかりやすく解説

PSPが注目される背景

PSPの取組みが盛んになっている背景として、医療従事者から見た視点と、患者・生活者から見た視点で見てみましょう。
まず、医療従事者から見た視点として、①スペシャルティ製品の増加に伴う、患者の治療継続を支援するニーズの高まり、②抗がん剤など外来での治療機会の増加に伴う、副作用マネジメントの重要性、③多職種連携が進む中で、治療サポートサービスの潜在的な需要の高まり、④コロナ禍による受診控えや治療中断による、医療機関の継続受診を高めるニーズの増加-といった背景が考えられます。がんや希少疾病といったスペシャルティ医薬品が多く登場することで、治療効果が高まることが期待できる一方、有害事象や自己判断による治療の中断をいかに食い止めるかが重要な課題です。がんの治療が外来通院で可能になってきましたが、その一方で、患者さん自身が治療薬に伴う副作用をマネジメントする必要性が増しており、ご家族を含めた患者さんに対しPSPを提供することで、患者さんのQOLやアドヒアランスの改善、治療アウトカムの向上につながることが期待できます。

患者・生活者の視点でみると、インターネットの普及により患者自身で疾患や治療、治療薬に関する情報を入手できるようになってきた一方で、間違った情報に惑わされないよう製薬企業側から積極的に正確な情報を伝える必要性が高まってきたことが考えられます。また、コロナ禍により患者さんの受診控えや治療中断を防ぐ一つの手法として、PSPを通じて患者さんに直接コミュニケーションを取ることで、治療継続を支援したいという製薬企業の意識の変化が生じているということも考えられます。

こうした背景に加え、PSPが医師法第17条に規定する「医業」に該当しないという回答も追い風となりました。経産省のグレーゾーン解消制度を通じて、「特定の医療用医薬品を処方されている患者等に対し情報提供する患者サポートサービス」の是非に関し、2019年3月厚労省は以下の回答を示しました。

“医師法(昭和23年法律第201号)第17条に規定する「医業」とは、当該行為を行うに当たり、
医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼす
おそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。
御照会の行為は、いずれも医行為に該当せず、医師でない者がこれを業として行ったとして
も、医師法第17条に違反しない。
なお、患者の個別的な状態に応じた医学的判断は行わないようにご留意いただきたい。”

厚労省の見解が示されたことで、日本においても製薬企業や、企業から委託を受けたサービス提供事業者が、PSPを実施しやすくなる環境が整ってきたといえます。
(引用元:https://www.mhlw.go.jp/shinsei_boshu/gray_zone/dl/jisseki_03.pdf

健康経営とは何か?
ヘルスケアビジネスとは

PSPのフローや提供内容

PSP実施の流れについて説明します。

  1. 製薬企業はPSPプログラムを作成し、受託企業と契約を行います。
  2. 製薬企業から医師に対しPSPを紹介、賛同した医師は患者さんにPSPの紹介を行い、申込書類を渡します。
  3. 患者さんが同意し、PSPの参加登録を行います。
  4. 受託企業は参加登録を確認し、医師、患者さんにエントリーの確認を通知します。
  5. 受託企業は患者さんごとにプログラムを設計し同意を得ます。
  6. 受託企業はPSPの提供を開始、有害事象を含めた報告を製薬企業に行います。
  7. 製薬企業は、必要に応じて医師にPSP利用状況を報告します。

図 サービスフロー

図 サービスフロー

製品プロファイルにより、サービス提供は異なりますが、一般的に以下の情報提供が行われます。

  • 対象製品の添付文書、インタビューフォーム、くすりのしおり、適正使用ガイド、患者指導資料
    に記載されている有効性と安全性、品質に関する情報
  • 学術誌や各種学会が公表している診療ガイドラインに記載されている疾患の発症メカニズム、症
    状、治療法などに関する確立されている情報
  • 注射の仕方や、トラブルの対処方法(例 1日1回投与を誤って2回投与した際の対応)
  • 服薬アプリなど機器の使い方
  • 隔日や週次投与など、投与スケジュールの管理に資する情報及び服薬状況の確認
  • 高額療養費、指定難病、介護や生活支援など社会保障制度に関する情報

PSPの広がり

従来、PSPといえば上述のサービスを看護師が電話を用いて提供することが一般的でしたが、▽服薬管理アプリの提供、▽自己注射とデバイスの連携(例 インスリン注射を打った日付、時間、投与量が記録できる)、▽患者宅への治療薬配送-など、PSPサービスが多様化しています。また、▽慢性眼疾患の治療継続率向上を目的とするMaaSを活用した患者サポートプログラム(ノバルティスファーマ)、▽パーキンソン病患者を対象とした、デジタルデバイスやアプリによる在宅モニタリング、オンライン診療・オンライン服薬指導などを組み合わせたプラットフォーム構築(武田薬品工業)など、自治体等と連携し実証実験として取り組む事例が出てきています。

(引用元:https://www.mlit.go.jp/scpf/projects/docs/smartcityproject_mlit(3)%2029_chiba.pdf
(引用元:https://assets-dam.takeda.com/raw/upload/v1675188575/legacy-dotcom/siteassets/ja-jp/home/announcements/2020/collaboration-with-kanagawa/kanagawa-project_clinical-trial.pdf

さらに、医療機関検索サイトや医療情報プラットフォームと製薬企業のオウンドメディアが連携し、疾患啓発から受診につなげるような、従来の治療を中心としてきたPSPではなく、より上流のところから、患者・生活者に病気に関する正しい情報を提供する”広義のPSP”の取組みが始まっています。

PSPのメリット・課題

PSPを普及していくことは、患者、医療関係者、製薬企業それぞれに以下のメリットが挙げられます。

表 PSPのメリット

表 PSPのメリット

一方、製薬企業においてPSPを実施する際の課題として、▽医師へのプログラム説明・許諾、▽MRのPSPプログラムの理解、▽PSP実施部門と営業・マーケティング部門との連携、▽費用対効果の測定-といった事が考えられます。PSPサービスは医師の許諾が起点となるため、サービスを理解し患者さんの登録を増やすためには医師へのサービスの認知・理解が不可欠となります。そのためには、MR自身がサービスの重要性を理解し、積極的に医師に紹介することが求められます。

まとめ

従来のPSPとは、アプリの提供、電話によるサービスといった点によるサービスが中心でしたが、疾患啓発、治療、予後といったPatient Journeyを網羅した様々なサービスをワンストップで提供する取組みが始まっています。製薬企業、ベンダー、自治体、医療・介護関係者など様々なステークホルダーが関わりながら、患者さんに最適なサービスを提供するという視点で、PSPサービスは新たなフェーズに入っていると言えるでしょう。
また、”広義のPSP”を実践することは、患者中心の医療(Patient Centricity)の実践にもつながることから、この点においても製薬企業の取組みが増していくことが考えられます。

ベルシステム24では、24時間365日稼働可能な看護チームにより、患者の手技指導、自己注射サポート、服薬状況確認・お問い合わせ受付・服薬/通院リマインド等、患者に寄り添ったPSPサービスを提供しています。

詳細は弊社ホームページをご参照ください。

執筆者紹介

塚前 昌利
塚前 昌利
株式会社ベルシステム24 
第1事業本部 営業企画部 マネージャー
外資系製薬企業にて、MR、プロダクトマーケティング、メディカルアフェアーズを経験後、医療系出版会社などを経て、2013年より現社にてマーケティング業務を担当。
業界経験を活かし、アウトソーシングの立場で、製薬企業の市販後サービスを中心に様々なニーズを踏まえた、最適なソリューションの提案、コンサルティング等の業務に携わる。診療報酬、医療制度、医薬品適正使用、情報提供のあり方等をテーマに業界誌に多数執筆、企業等での外部セミナー講師も担当。
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会・認定登録コンサルタント
デジタルヘルスとは

この著者の最新の記事

広がる患者サポートプログラム、今後の展開は?
ページ上部へ戻る