ストレスチェック制度とは? 概要や義務となる事業者、実施の流れなどを解説
- 2023.10.17
- 予知・予防 , 医師監修
- ウェルネスの空 編集部
ストレスチェック制度は、50名以上の労働者がいる事業場に実施が義務付けられています。労働者が自身のストレス状態に気づくための手段としても有効であり、該当しない事業場にも努力義務として実施を促しています。この記事ではストレスチェック制度について、その概要をはじめ創設の背景や目的、実施の流れなどを詳しく解説します。
ストレスチェック制度とは?
近年、精神障害の労災認定件数が増加傾向にあるなど、職場におけるメンタルヘルスケアの重要性が注目されています。このような背景から、2014年には労働安全衛生法の改正によって「ストレスチェック制度」が導入されました。この取り組みは、労働者の安全と健康を確保することを目的としています。対象となる事業場にはある一定の条件があります。
参考資料:厚生労働省|労働安全衛生法の一部を改正する法律(平成26年法律第82号)の概要
ストレスチェック制度の概要
ストレスチェック制度では、1年に1度の実施が義務付けられています。実際のストレスチェックを行う「実施者」は医師や保健師などが担当し、事業者は関与できません。まず、ストレスに関する選択式の質問票に労働者が記入します。これは、労働者のストレスがどのような状態であるかを調べる検査です。その後、質問票は実施者である医師などに送られます。
調査結果は実施者から本人に直接通知されます。ここで面接指導が必要であるとされた労働者は、本人の希望で面接指導を受けることが可能です。
実施者は結果の集計・分析をして、ストレスの原因がどこにあるのかを把握し、改善します。場合によっては配置換えや作業転換などが必要です。
ストレスチェック制度が導入された背景や目的
この制度が導入された背景には、精神障害による労働災害の認定件数が、2009年から2012年までの3年間連続で過去最高を更新したという状況がありました。仕事や職場に関する強い不安感や悩みを抱え、それがストレスとなり、精神障害の発病に至ってしまう労働者はその後も増加しています。労働者自身がストレスに気づき、ストレスの要因となる職場環境を改善して、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐことがストレスチェック制度の目的です。
ストレスチェック制度導入の義務について
ストレスチェック制度が義務付けられているのは、一定の条件に当てはまる事業場です。ここでは、条件に当てはまる事業場と対象となる労働者、実施頻度を解説します。
対象となる事業場(実施者)
対象となるのは、法人や個人を問わず、常時50人以上の労働者がいる全事業場です。事業場とは、企業全体ではなく工場や事務所、店舗など一定・同一の場所にあるものを指します。また、50名は勤務時間や日数に関係なく継続して雇用している労働者の人数です。
一方、労働者が50名未満の事業場における実施は努力義務と定められています。しかし、他の事業場に50名以上の労働者がいる場合(本社など)は、たとえ50名未満の事業場であっても全労働者が受けられる体制であることが推奨されています。
なお、義務付けられているのはあくまでも「実施」です。労働者自身がチェックを受けるか受けないかは任意であり、強制するものではありません。
対象となる労働者
ストレスチェック制度は正社員だけでなく、契約期間の定められていない契約社員やパート・アルバイトなども対象です。パート・アルバイトなら、1週間の労働時間が通常の所定労働時間数の4分の3以上であること、契約社員なら契約期間が1年以上、もしくは更新により1年以上使用される予定であることが条件です。
派遣社員については、原則として派遣元の企業が実施義務を負っています。その一方、事業場で集団分析を行うことの必要性から、派遣先の事業場でも実施が推奨されています。
ストレスチェック実施の頻度
ストレスチェックは1年以内に1回の実施が義務付けられています。実施後は労働基準監督署への報告が必要です。また、調査審議において労使間で合意があった場合は、1年に数回実施することやストレスがかかりやすい繁忙期に行うことが可能です。
ストレスチェック制度の導入方法
ストレスチェック制度の導入は、基本的に厚生労働省の実施マニュアルに沿って進めます。実施に先立って入念な準備が必要です。
まずは実施体制を確立し、労働者に周知します。実施体制の確立は、事業場の衛生委員会などで審議・決定を行った上で社内規程を作成し、個人情報保護の検討も行います。また、実施者の選任も必要です。実施者は、医師や保健師、看護師、精神保健福祉士などから選任します。また、労働者への周知では、実施体制だけでなくこの制度の意義や目的も伝えることが重要です。
参照元:厚生労働省|労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル
ストレスチェック実施の流れ
ストレスチェックの実施手順は、大きく4段階に分けられます。ここでは、流れに沿ってそれぞれの内容を解説します。
STEP1:調査票への記入
まずは労働者に調査票を配り、記入してもらいます。調査票の形式は紙でも電子データでも問題ありません。
調査票の内容には「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」という3つの領域を盛り込む必要があり、質問項目は実施者で選定しなければなりません。その場合、厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を参考にすると良いでしょう。また、「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」をダウンロードして利用することも可能です。
参照元
「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」ダウンロードサイト
「職業性ストレス簡易調査票(57 項目)」
STEP2:結果の通知とストレス判定
調査票への回答で得られた結果は、実施者が労働者に直接通知します。通知する内容は、ストレスプロフィール(ストレス状態がどの程度かを示したチャート)に加えて、高ストレスであるかどうか、面接指導が必要かなどの判定結果です。
高ストレスであるかの基準は、厚生労働省の実施マニュアルに準拠します。高ストレスであると判定された労働者には、医師との面接についての申し出方法を伝えます。ただし、面接を受けるかどうかは労働者の任意です。
参照元:厚生労働省|労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル ※P,38
STEP3:医師による面接指導
医師との面接指導を希望した労働者には、実施者がその日時・場所などを手配します。面接指導では、調査結果に加えて心身の状況や勤務状況、疲労・不安・抑うつ症状などを確認し、その要因となる業務や心理的負担などを総合的に評価します。面接指導の結果、実施者が労働者に対して残業禁止や休職、就業制限などの措置が必要と判断した場合は事業者に伝えられ、事業者は対応しなければなりません。
STEP4:集団分析と職場環境の改善
結果を部署ごとに集団分析し、ストレスを抱えている労働者が多い部署では職場環境の改善を実施します。集団分析および職場環境改善については「努力義務」ではあるものの、労働者のストレスを未然に防ぐためにも実施が推奨されています。
ストレスチェック制度を導入する場合の注意点
制度を導入する際は、労働者に対する配慮を忘れてはなりません。とりわけ以下の点に注意する必要があります。
労働者に不利益を与えないこと
前述したように、ストレスチェックを受けるかどうか、医師との面接指導を行うかどうかは労働者自身が決めることです。これらを受けさせることも、また受けさせないようにすることも強制できません。また、結果を理由とした解雇や勝手な配置転換、役職の変更など、労働者に不利益が生じる措置は禁止されています。医師との面談結果により何らかの措置が必要であると判断された場合に限り、医師の意見や法に基づいて適切な措置を講じなければなりません。
プライバシーを保護すること
ストレスチェックの結果および医師との面接指導の内容は、労働者の個人情報です。そのため、実施者には守秘義務が課せられており、書類やデータの管理は徹底しなければなりません。
また、労働者が調査票に記入する際も、正直に答えられるような環境を整えることが求められます。少しでも上司に見られる可能性があると、正直な答えを書けない労働者が出てくるかもしれません。安心して答えられる環境づくりは、プライバシー保護だけでなく職場改善の観点からも重要です。
まとめ
ストレスチェック制度は、労働者が抱えるストレスに対する気づきや、ストレスの要因となる職場環境を改善し、労働者のメンタルヘルスの不調を未然に防ぐための取り組みです。労働者50名以上の事業場に1年に1回の頻度で義務付けられています。基本的には厚生労働省のマニュアルに沿って実施します。実施体制の確立や労働者への周知といった準備を入念に行うことが重要です。労働者のプライバシーに十分に配慮し、調査結果による不利益を与えないよう、注意して実施しましょう。
この記事の監修医師
竹内 想先生(名古屋大学医学部附属病院)
労働者が50人未満の事業場ではストレスチェック実施が努力義務とされているが、小規模事業場であっても、▽メンタルヘルスの不調者の早期発見・対策、▽生産性の向上、▽企業イメージ向上-など、メンタルヘルスケアのためのストレスチェック実施のメリットが考えられる。助成制度も準備されており積極的な活用が望まれる。
この記事は、医療健康情報を含むコンテンツを専門医がオンライン上で確認する「メディコレWEB」の認証を受けています。
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