医療のICT化とは? 電子カルテなどのメリットと課題
- 2023.03.20
- 健康維持・増進
- ウェルネスの空 編集部
社会のさまざまな産業でデジタル変革(DX)が求められているように、医療分野でもデジタル化による変革が求められています。ICTを活用した医療ICTを推進することで、さまざまな課題を解決し、新しい価値を提供することが可能です。
医療ICTとは
ICT(Information and Communication Technology)とは、IT技術を活用したコミュニケーションを指す言葉です。そこから医療ICTとは、ICT技術を活用して医療分野の電子化を進めていくことを指します。
遠隔地にいる医師から診療が受けられる遠隔診療や、従来は紙媒体で保管していた医療情報をデジタルデータとして保存する電子カルテが医療ICTの代表例です。
医療ICT化の必要性
現在、日本では少子高齢化が大きな社会課題となっています。2022年には、総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が29.1%と過去最高となりました。この割合は今後も上昇するとみられており、2040年には3人に1人が高齢者(高齢者割合35.3%)になると予測されています。
(参照:https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1321.html)
少子高齢化に伴って医療需要が高まる一方で、医学部の入学定員抑制による医師不足や医師の業務内容変化による作業負担の増大、中央と地方の医療格差など、医療を提供する側の人手不足が大きな問題となっています。そのためICTの活用による課題解決が強く求められています。
医療ICTを取り入れるメリット
医療の現場でICTを活用することで、以下のようなメリットが期待できます。
遠隔での医療提供が可能になる
ICTの活用により、遠隔での医療提供が可能になります。なかでもウェブ会議ツールや専用アプリなどを活用してオンラインで医療を提供するオンライン診療は、新型コロナウイルス感染症予防の観点から外出せずに診察が受けられる手段として急速に普及が進みました。さらに2020年から提供が開始された5Gを活用し、より高度な遠隔医療の提供が実現するとみられています。
遠隔で各種医療サービスを提供できるようになることで、医師が少ない過疎地域や離島などでも質の高い医療を提供できるようになります。これにより医療格差の問題解決につながると期待されています。また、コミュニケーションが活性化し、医師間のネットワークが構築されることで、医療の質が向上する効果も予想されます。
医療機関の業務効率化ができる
医師の業務は診療だけでなく、診断書・カルテ等の書類作成や管理業務、システムへの入力作業など多岐にわたります。事務作業補助者の配置や関係職種との役割分担といった改善策も行われていますが、長時間労働や医療従事者の負担増大といった根本的な課題を解決するためにはICTによる業務効率化が急務です。
ICTの活用により、従来手作業で行っていた作業の自動化や効率化が可能です。たとえば電子カルテの導入により、記載の手間を削減する、情報を参照しやすくするといった効果が期待できます。また、患者にタグを装着してもらい位置を把握する患者所在管理システムを導入することで、患者を探す業務が削減できるだけでなく無断外出防止にもつながります。検体管理や予約管理といった業務も、ICT化により効率化が可能です。
さらにAI(人工知能)の進化により、画像診断支援などの高度な医療補助も実用化されています。診察時の会話からカルテを自動作成したり、膨大な量の論文を解析したりする際にもAI技術が活躍します。
医療ICTの現状と課題
ICTを活用したシステムは、患者の医療情報を関係各所でリアルタイムに共有できる手段であり、業務効率化や医療の質向上に大きく貢献するものです。しかしながら、さまざまな要因から普及が進んでいない状況が見られます。また、診療報酬の問題や運用上の課題など、オンライン診療をはじめとした医療ICTを推進する上で障害となる要因も存在します。
電子カルテ以外の普及が遅い
一般病院における電子カルテ等の普及率は2020年で57.2%あり、400床以上の病院に限れば91.2%にも及びます。200床未満の病院では、まだ半数程度の普及率(48.8%)ですが、2014年と比較すると倍増しています。導入コストや運用負担といった課題があるものの、長期的には順調に利用が広がっていることがわかります。
(参照:https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000938782.pdf)
その一方で、電子カルテ以外のシステムはそれほど普及していない状況です。医療機関の窓口で、患者の被保険者資格を確認できる「オンライン資格確認等システム」は2021年より本格稼働しています。厚生労働省では、2023年3月末までにおおむねすべての医療機関・薬局での導入を目指すという目標を掲げていますが、2022年8月時点での運用開始施設数は26.8%にとどまっています。
(参照:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000977518.pdf)
また、医療機関・薬局間で患者情報をデジタル化し共有する「地域医療情報連携ネットワーク」に関しても、基金を用いてシステムを構築したものの、実際にはシステムが全く利用されていない、利用が低調であるネットワークが存在するといった指摘があるなどスムーズな運用には至っていない状況です。
(参照:https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000683765.pdf)
完全なICT化は難しい
医療を受ける患者には子どもや高齢者も多くいます。また、停電やシステムトラブルなど不測の事態に備えて紙での対応も必要なため、すべてをICT化することは困難です。
大規模なシステムの導入には多額の費用がかかるほか、運用するためのIT人材が必要です。そのため、予算を確保できない中小規模の医療機関では、導入に踏み切れないケースも見られます。さらに操作するスタッフ側でもパソコン操作に不慣れな場合があり、ICT化を妨げる一因となっています。
遠隔診療は情報量が少ない
オンライン診療は多くのメリットがあることから普及が進んでいますが、聴診や触診ができる対面診療と比較すると得られる情報が少ない点がデメリットです。特に現状では遠隔診療において電話が占める割合が過半数を占め、音声のみから得られる情報には限りがあります。
(参照:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd122320.html)
しかし、症状が明確なケースや薬の処方のみを求める診療など、条件によってはオンライン診療で十分対応できるため、対面診療との使い分けをするなどの工夫により課題解決が図れる可能性があります。さらに、通信品質の向上などにより高画質の映像が得られるようになることで、情報量が拡大する可能性も期待できます。
遠隔診療の診療報酬が低い
オンライン診療は、対面診療と比較すると診療報酬が低くなります。厚生労働省の告示では、2022年4月以降オンラインからの初診は251点と対面での初診料288点よりも低く設定されています。オンライン診療を導入する際には初期費用および運用コストがかかるため、診療報酬の低さはオンライン診療を導入する上での足枷になる可能性があります。
まとめ
医療ICTの推進により、利用者にとっては利便性の向上が、医療機関にとっては質の高い医療の提供に加えて作業負担の軽減、業務効率化といったメリットが期待できます。いくつかの課題が残るものの、人手不足を補いつつ、よりよい医療を提供する手段として医療ICTが果たす役割は大きいものです。今後も新たな技術を活用しながら取り組みが進むとみられています。
医療ICTの推進を支えるサービスにはさまざまなものがあります。電子カルテやオンライン資格確認等システム、地域医療情報連携ネットワークなど政府が推進する仕組みだけでなく、医療スタートアップが提供するサービスや専門分野で強みをもつ事業者が提供するソリューションなど選択肢も豊富です。
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