【2024年施行】医師の働き方改革とは? わかりやすくポイントを解説
- 2023.08.10
- 医師監修
- ウェルネスの空 編集部
医療需要の増加や医療業界の人材不足、医療の質の維持などさまざまな原因から現在問題となっているのが医師の長時間労働です。本記事では、医師の長時間労働改善が期待されている2024年4月施行の「医師の働き方改革」について解説します。
医師の働き方改革とは?
医師の働き方改革とは、医師の長時間労働を是正する取り組みのことです。2024年4月施行の「医療法等改正法」(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律)で定められているため、施行開始までに医師の勤務時間の改善に取りかからなければなりません。
医療法等改正法の施行によって、これまで長時間労働が問題となっていた医師の時間外・休日労働に対する上限規制が始まるため、改善が難しかった労働状況の変化が期待できます。医師の働き方改革の詳細は、記事の後半でわかりやすく解説します。
医師の労働状況
現在の医療機関における医師の働き方には、長時間労働の常態化や休日確保の困難さなど、多くの問題が生じています。
労働基準法の原則によると、1週間の労働時間が40時間まで、時間外労働は原則月45時間・年では360時間まで(特別条項付き36協定ありの場合月100時間・年720時間まで)と定められています。
しかし、2019年の厚生労働省の調査では、労働基準法の倍近くとなる週あたり80時間以上(推定年間時間外労働1860時間超)も働いている医師がいる病院が全体の21%にもおよんでいました。
救命救急機能を有する病院に限定すると49%、大学病院では46%、許可病床400床以上の病院に関しては39%の割合です。この結果から、特に規模の大きい病院などに勤務する医師の長時間労働の実態がわかります。
また、同年の病院常勤勤務医の週労働時間を見ると、週60時間を超える勤務医は全体の37.8%にもおよびます。
加速する高齢化社会や新型コロナウイルス感染症対応などが原因で、医療・介護の需要は増大しています。今後もさらなる医師の負担増が懸念されるため、医師の働き方改革による労働状況の改善は急務です。
厚生労働省 医師等働き方改革推進室「医師の働き方改革について」(3ページ)
厚生労働省「令和元年 医師の勤務実態調査<概要>」(13ページ)
医師の働き方改革が開始される経緯
働き方改革促進に関する「働き方改革関連法」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)は、2019年4月から順次施行されてきました。しかし医師については業務の特殊性や医療現場への影響などから労働時間短縮への対応がすぐには行えないため、5年の猶予が設けられていました。
その間、2021年5月21日に、「働き方改革」を踏まえた改正医療法が成立し、医師の長時間勤務を制限する法的な環境が整えられました。そして2024年4月から、医師の働き方改革が開始されます。
厚生労働省「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について」
医師の働き方改革で重要な2つのポイント
医師の働き方改革で重要なポイントは、労働時間改善に向けた「時間外・休日労働の上限規制」と、上限を超えて労働する場合に行う「追加的健康確保措置」の2点です。
1. 「時間外・休日労働の上限規制」が適用される
2024年4月から医師の「時間外・休日労働の上限規制」が適用になると、医師に対してもほかの業種の労働者と同じレベルの時間外労働制限を設けなければなりません。もし所定の労働時間を超えて医師を働かせてしまった場合、医療機関は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」を科せられます。
医師の働き方改革では、A・B・Cの3種類の水準に分け、時間外労働の上限を設定します。
【A水準】
医療に従事する一般の医師に適用される水準です。特別条項付き36協定を締結した場合の時間外労働制限は月間100時間未満・年960時間以下です。
【B水準】
救急病院や救急車の年間受入数1,000台以上の病院など、特に緊急性の高い医療を提供する医療機関や地域医療確保のために必要な役割を果たす医療機関に設定される水準です。時間外労働制限は月間100時間未満・年間1860時間以下です。
【C水準】
研修医の研修などを行う医療機関に設定される水準です。B水準同様、月間100時間未満・年間1860時間以下までしか時間外労働ができません。
B・C水準は「特定労務管理対象機関」限定の水準です。これは、時間外労働を削減した場合に、医療サービスの維持に影響が出るリスクがあるとの判断から、都道府県に指定される医療機関を指します。あくまでも暫定的な措置であり、将来的にはA水準を目指さなければなりません。
上記のように、指定医療機関では、年1860時間までの上限設定が可能です。しかし指定ではないA水準が適用される医療機関では、労使間での協定(36協定)を締結して労働可能な時間を定めなければなりません。医師の場合、特別条項付き36協定を締結したときの上限は月100時間未満・年960時間以下なので、この範囲内に設定します。これには休日労働も含まれます。
2. 「追加的健康確保措置」の実施が必要となる
時間外労働の上限を超えて働く医師に対しては、「追加的健康確保措置」を実施しなければなりません。違反すると都道府県知事からの改善措置命令が出されます。追加的健康確保措置の内容は以下のとおりです。
- 連続勤務時間制限
- 勤務間インターバル
- 代償休息
- 面接指導
- 就業上の措置
A水準以外の指定医療機関では、上限を超えて働く医師に対して「連続勤務時間制限」「勤務間インターバル」「代償休息」の実施が義務づけられています。A水準の医療機関は努力義務です。
連続勤務時間制限は、宿日直許可を受けているケースを除いて連続勤務時間を28時間までにする制限です。
勤務間インターバルは、当直・当直明けの日を除いて24時間中日勤後から次の勤務まで9時間のインターバルを入れる措置を指します。
代償休息は、やむをえない事情があって上記のどちらも実施できなかった場合に時間休を取得するなどの休息を取る措置です。可能な方法を用いて医師の疲労回復を図ります。
また、すべての水準の医療機関において、時間外労働が100時間を超える医師に対し、専門医による「面接指導」が義務づけられています。100時間を超えてからではなく、疲労の蓄積や睡眠状況を事前に確認するなど、100時間を超える前の面接指導が必要である点に留意しましょう。
「就業上の措置」は、面接指導の結果にもとづき、休息の付与や就業禁止などの措置を取ることをいいます。
厚生労働省「追加的健康確保措置(連続勤務時間制限・勤務間インターバル規制等)の運用について」
医師の働き方改革に向けて病院が対応すると良いこと
医師の業務負担軽減を図ることで、長時間労働の改善につながります。具体的には、IT化による工数削減と分業体制の構築が有効です。
1. IT化による工数の削減を目指す
IT化によって作業工数自体を削減し、医師の負担を軽減します。
さらには、医師の勤務時間の管理もITに活用し、勤務状況の見える化を図ります。
例1:電子カルテの導入
厚生労働省の調査結果によると、「所定外労働が発生する理由」として挙げた医師の回答は「診断書やカルテ等の書類作成のため」が1位で、57.1%を占めていました。2位以下の「緊急や入院患者の緊急対応のため」「患者(家族)への説明対応のため」といった対応とは異なり、書類作成業務はIT化による工数削減が可能です。
電子カルテを導入すると、診療経過・バイタルの記載、看護記録、画像・検査結果などを電子データとして一元管理できるため、医師の長時間勤務の改善につながります。
厚生労働省「我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」(151、154ページ)
例2:勤怠管理システムの導入
医療機関では勤務時間の管理が複雑なケースが多く、医師の正しい勤務時間の把握が難しくなりやすい点にも注意が必要です。医師の長時間労働を防ぐためには、勤務時間を正確に把握して対策を行わなければなりません。
シフト表を紙やExcelなどで作成していると、作成に時間がかかり、時間計算にミスが生じるリスクもあります。勤務時間を記録として残す必要もあるため、手書きの出退勤表は廃止し、適切な勤怠管理を行うことが重要です。
シフトの作成には、簡単かつ正確なシフトを作成でき、宿直や日直などのスケジュール管理も可能な勤怠管理システムの導入が適しています。シフト作成の手間を削減し、労働時間を正確に管理できる勤怠管理の実現は、医師の働き方改革の推進に効果的です。
2. 分業体制(タスク・シフト/タスクシェア)を整える
分業体制(タスク・シフト/タスクシェア)の採用も、医師の長時間労働の軽減につながります。
タスク・シフトは、看護師や薬剤師など他職種のスタッフに医師業務の一部だけを移管する「業務移管」です。たとえば「特定行為に係る看護師の研修」を修了した看護師などに一部の医療行為をシフトする分業などが可能です。
タスク・シェアは、医師の業務をほかの複数の職種で分け合う「業務の共同化」です。医師以外が行える業務を洗い出して、薬剤師など複数の職種による分業を行います。
まとめ
医師の働き方改革は、長時間労働の問題を抱えていた医師の勤務時間の見直しを行う取り組みです。2024年4月から医療法等改正法が施行され、医師の時間外労働の上限は、医療機関によってA・B・Cの3種類の水準に設定されます。
また、医師の疲労蓄積・睡眠状況にも配慮する追加的健康確保措置への対応も欠かせません。医師の勤務時間の見直しや作業負担の軽減には、電子カルテの導入などIT化によるサポートが効果的です。
この記事の監修医師
竹内 想先生(名古屋大学医学部附属病院)
医師の長時間労働が問題視されることが増えてきました。
働き方改革関連法案で医師は例外として対象から外されていましたが、猶予期間を経て2024年4月からは対象となります。医師といえども労働者であり、長時間勤務者に対しては他の職種と同様に健康状態に配慮した面談の実施や、必要な措置を講じる必要があります。
この記事は、医療健康情報を含むコンテンツを専門医がオンライン上で確認する「メディコレWEB」の認証を受けています。
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