6月1日から施行された2024年度診療報酬改定、介護報酬との同時改定ということもあり、医療と介護の連携を睨んだ項目も多く、これまでにない膨大な内容となっています。今回、「2024年度診療報酬改定を読み解く」と題し、病院編、診療所編に分け、改定内容を解説します。
2024年度診療報酬改定のポイント
各論に入る前に、改定のポイントについてみてみましょう。今回の改定は以下の4つの柱が示され、特に①と②が特徴と言えます。
- 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進(重点課題)
- ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進
- 安心・安全で質の高い医療の推進
- 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上
図1 改定の「基本認識」「基本的視点」「具体的方向性」
令和5年12月8日開催 「第172回社会保障審議会医療保険部会」資料を元に作成
今改定は、「①現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」が重点課題とされました。大企業を中心に5%を超える賃上げが行われる中、医療従事者に対しても物価上昇、賃金上昇を踏まえた対応が喫緊の課題でした。一方、医療機関の収益の殆どは診療報酬であり、それを引き上げると患者・保険者の負担増につながります。結果的に、診療報酬改定の大半を賃上げに回すという苦渋の策が取られた、いわば”社会的な要請”を踏まえた対応が行われたと言えます。
「②ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」は、2040年にかけて人口減少と少子高齢化が進んでいくことを踏まえ、医療DXの推進や、医療提供体制の再構築や介護との連携をより進めていく、”人口動態や環境要因”を踏まえた対応となります。
ここからは、病院に関して、①に該当する「働き方改革を踏まえた改定」、②に該当する「入院医療体系の見直し」、その他の注目ポイントについて解説します。
働き方改革を踏まえた改定
地域医療体制確保加算の要件を厳格化
4月から開始された医師の時間外労働規制を着実に推進するため、地域の救急医療体制などを担う医療機関が、労働時間の短縮計画を作成することなどを要件に算定できる「地域医療体制確保加算」の要件が厳格化されました。具体的には、医師の労働時間について、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することが求められます。また、年間の労働時間も、勤務医の残業時間の上限とされる1,860時間よりも短い1,785時間以下(令和7年度は1,710時間以下)とすることが基準とされ、より厳格な労働規制が求められます。
地域医療体制確保加算を届出ている病院は1,000施設超(昨年7月時点)ですが、これに該当する病院はもちろん、全ての病院で医師の時間外労働規制が開始されますので、MRは担当病院毎の状況を把握することはもちろん、リアル面談の時間が制約を受けることを考慮し、リアル以外のコミュニケーション手段も組み合わせた情報提供が求められます。
医師の自己研鑽の考え方
診療報酬改定とは直接関係ありませんが、医師の自己研鑽の考え方についても整理されています。医師の時間外労働規制においては、業務内容が「労働時間」、「自己研鑽」どちらに該当するのかの見極めが重要になるため、厚労省は3月29日に「医師の研鑽の適切な理解のために」と題する医師の研鑽に関する関連通達を解説した資料をリリースしました。
特に、教育・研究を本来業務に含む大学病院等の医師は、本来業務と研鑽の明確な区分が困難なことが多く、労働時間に該当するかどうかを明確にするための手続きとして、医師本人と上司の間で円滑なコミュニケーションを取り、双方の理解の一致のために十分な確認を行うことが重要としています。この前提を踏まえ、解説では、労働時間か自己研鑽に該当するのか具体的な事例が示されています。
例えば、「診療ガイドラインについての勉強、新しい治療法や新薬についての勉強、自らが術者等である手術や処置等についての予習や振り返り、シミュレーターを用いた手技の練習等は労働時間」は、「本来業務(診療、教育・研究)の準備または本来業務の後処理として不可欠なものは労働時間に該当する」「業務上必須でない行為を自由な意思に基づき、自ら申し出て、上司の明示・黙示の指示なく行う時間については、一般的に労働時間に該当しない」-としています。
図2 労働時間該当性のイメージ
厚生労働省「医師の研鑽の適切な理解のために」
厚労省は、医療機関で、研鑽の取扱いに関するルールを定め、適切な運用を図ることを求めています。これまで以上に医師との面談や医療機関における説明会の開催などの情報提供の機会が制限される可能性があり、医療機関の対応に注意を払う必要があります。
入院医療体系の見直し
地域包括医療病棟の新設
高齢者の人口増加に伴い、高齢の救急搬送患者が増加、中でも軽症・中等症の患者が増加していますが、一部の患者は治療の間に離床が進まず、入院が長期化し在宅復帰が遅れることが問題とされていました。高齢者の救急搬送では、誤嚥性肺炎や尿路感染症といった疾患が多く、早期の退院に向けたリハビリテーションや栄養管理、口腔管理といった対応が必要であり、現状の7対1や10対1といった看護師を中心とした配置に代わる、多職種による包括的に医療を提供する体制が求められ、「地域包括医療病棟」が新設されました。
図3 地域包括医療病棟における医療サービスのイメージ
厚生労働省 令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅰ 地域包括医療病棟】3ページより
施設要件としては、国公立や民間の高度な急性期医療や専門性の高い医療を提供している病院は対象外です。看護配置は10対1で、常勤の理学療法士、作業療法士、または言語聴覚士が病棟に2人以上、専任の管理栄養士が病棟に1人以上の配置が求められます。従来の地域包括ケア病棟は13対1の配置ですから、急性期病床(7対1または10対1)よりもリハビリや栄養管理の体制を厚くし、地域包括ケア病棟よりも看護師が手厚く配置された病棟という位置づけとなります。点数も地域包括ケア病棟入院料で最も高い2,831点よりさらに高い、3,050点を請求できます。ただし、この中には入院基本料、入院基本料等加算、画像診断、投薬(抗がん剤等の除外薬剤・注射薬は除く)、注射、リハビリテーションなどが含まれており、必要な薬剤が絞り込まれることは言うまでもありません。
一方、急性期7対1病床では、介護の評価に近しい「B項目」と呼ばれる指標がなくなり、平均在院日数も18日から16日に短縮されるなど、これまで以上に急性期で受け入れるべき患者を評価する見直しが行われています。この見直しにより基準を満たす医療機関は最大で約2割減少するとの見立てもあり、高齢者の緊急入院を多く受け入れてきた7対1病床は10対1への転換や、地域包括医療病棟への移行といった対応が考えられ、患者の受け入れや採用薬剤の見直しといった動きが考えられ、担当病院の状況を探る必要があります。
入院中の薬物療法の適正化のさらなる推進
2016年度診療報酬改定で、多種類の服薬を行っている患者の処方薬剤を総合的に調整する取組みを行い、処方薬剤数が減少した場合に評価する、「薬剤総合評価調整加算」が設けられました。今改定では、カンファレンスの実施に限らず、多職種による薬物療法の総合的評価及び情報共有・連携ができる機会を活用して必要な薬剤調整等を実施することや、実効性を担保するため、医療機関内のポリファーマシー対策に係る評価方法についてあらかじめ手順書を作成することが要件に追加されました。MRはこれまで以上に、医師以外の薬剤師や看護師等の多職種への情報提供が求められます。
また、手順書作成にあたっては、「高齢者の医薬品適正使用の指針」(厚労省)、日本老年医学会の関連ガイドライン(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン)、「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」(厚労省)、「ポリファーマシー対策の進め方」(日本病院薬剤師会)等を参考にすることとされ、ガイドラインに記載された薬物療法の実施が求められることになることから、MRは医師に対してこうした情報も考慮した情報提供・適正使用の推進が求められます。
外来腫瘍化学療法診療料の見直し
医療や治療剤の進歩により、働きながらがん治療を行う患者が増加しており、外来でのがん治療の充実を図るための診療報酬上の充実が図られてきました。今改定では、従来の外来腫瘍化学療法診療料1、2の区分を見直し3の区分を新設しました。
外来腫瘍化学療法診療料1の施設基準は、▽化学療法経験5年以上の専任常勤医師の配置、▽化学療法経験5年以上の専任看護師を、化学療法実施時間帯に常時治療室に配置、▽化学療法調剤経験5年以上の専任常勤薬剤師の配置、▽専任の医師、看護師または薬剤師を院内に常時1人以上配置し、患者からの電話等による緊急相談等に24時間対応できる連絡体制を整備-など、非常に手厚いがん治療体制を敷いている、がん治療拠点病院が算定できるイメージです。
「診療料2」は、患者からの副作用相談等に自院で24時間対応できる病院が算定できますが、今回、他院との連携で24時間の相談対応を行う病院が算定できる「診療料3」が新設されました。「診療料1」を取得する病院と連携することで、緊急時の有害事象に対応できる体制が確保でき、これまで以上に外来でのがん治療の裾野が広がることが期待されます。がん診療拠点病院を担当しているMRは、連携して治療を行う「診療料3」を取得している病院担当のMRと情報共有し、適正使用の推進を図る必要があります。
図4 外来腫瘍化学療法の普及・推進のイメージ
厚生労働省 令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)93ページより
がん薬物療法体制充実加算の新設
がん患者に対する外来における安心・安全な化学療法の実施を推進する観点から、診察前に薬剤師が服薬状況や副作用の発現状況等について収集・評価を行い、医師に情報提供、処方に関する提案等を行った場合の評価として、「がん薬物療法体制充実加算」が新設されました。
対象施設は「外来腫瘍化学療法診療料1」の取得に加え、化学療法に係る調剤経験5年以上で、40時間以上のがんに係る適切な研修を修了し、がん患者に対する薬剤管理指導の実績が50症例(複数のがん種であることが望ましい)以上を有する専任の常勤薬剤師を配置が要件とされています。
まとめ
「薬剤総合評価調整加算」や「がん薬物療法体制充実加算」の鍵を握るのは薬剤師です。また、「外来腫瘍化学療法診療料」は医師以外の薬剤師、看護師の配置基準や役割が求められており、MRはこれまで以上に多職種への情報提供活動が求められます。また、こうした活動を行うことで、タスクシェア・タスクシフトの推進に貢献することができるでしょう。働き方改革を踏まえた、MR活動の再構築が求められます。
医療と介護の連携に関しては、こちらのブログをご参照ください。
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執筆者紹介
第1事業本部 営業企画部 マネージャー
業界経験を活かし、アウトソーシングの立場で、製薬企業の市販後サービスを中心に様々なニーズを踏まえた、最適なソリューションの提案、コンサルティング等の業務に携わる。診療報酬、医療制度、医薬品適正使用、情報提供のあり方等をテーマに業界誌に多数執筆、企業等での外部セミナー講師も担当。
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会・認定登録コンサルタント
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