2024年度診療報酬改定を読み解く~製薬企業が気になるポイント~ 診療所編

患者×診察×血圧測定1

24年度診療報酬改定は、「生活習慣病を中心とした管理料や処方箋料等の再編等による効率化・適正化」による報酬の引き下げが行われ、診療所にとって厳しい内容となりました。ここでは引き下げが行われた背景や、具体的な改定内容についてご紹介します。

改定の指標となった医療経済実態調査

診療報酬改定に際しては、病院、診療所、薬局の経営状況が重要な指標となるため、定期的に実施されている医療経済実態調査の結果が重要なデータとなります。医療機関の経営が好調であれば引上げの必要はない、経営が厳しければ引上げの必要があるということになり、診療報酬改定の大きな判断材料となります。

昨年1124日の中医協総会で公表された22年度の医療経済実態調査結果では、一般病院の経営は悪化している一方、診療所の経営は回復しているとのデータが示されました。ただし、医療機関の経営状況はコロナ補助金の影響等を考慮する必要があり、コロナや物価、人件費、光熱水費等の高騰の影響などを加味した結果を含めて23年度の医療機関経営状況を推計したところ、病院では、コロナ補助等を除外すると▲10.3%の医業赤字、コロナ補助等を加えても▲10.2%医業赤字の一方、診療所は▼コロナ補助等を除外すると7.6%の医業黒字、コロナ補助等を加えても7.0%の黒字になるとの結果が示されました。

医療機関の利益率の推移-1

表1 医療機関の利益率の推移
令和5年11月24日開催 第567回中央社会保険医療協議会資料を元に作成

診療報酬の改定率は予算編成の過程で内閣が決定、これを受けて中医協では個別の項目についての議論が行われます。本来、改定項目の議論は中医協で行われるべきですが、決定文章の中に「生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化として0.25%引き下げる」事が明記されており、医療経済実態調査結果が政府の引き下げ判断に繋がったことが推察されます。

2024年度診療報酬改定の内訳

図1 2024年度診療報酬改定の内訳
「診療報酬改定について」を元に作成

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生活習慣病関連の評価見直し

今回どのような見直しが行われたのかを解説する前に、患者の流れについてみてみましょう。国は、患者の流れとして「まずかかりつけの医療機関を受診し、専門的な治療が必要であれば専門病院や総合病院を紹介、必要があれば入院し手術を受ける。その後治療を受けて症状が安定してくれば退院となり、必要があれば紹介先の医療機関や、専門治療ができる地元の医療機関を逆紹介する」という医療体系を進めています。

生活習慣病患者はまず外来医療、つまりかかりつけの診療所の受診を促すこととし、診療報酬では「かかりつけ医機能」を評価する多くの項目が設定されていますが、要件が曖昧との指摘があがっていました。また、地域包括診療加算/地域包括診療料、生活習慣病管理料、特定疾患療養管理料はいずれも高血圧症、糖尿病、脂質異常症患者といった生活習慣病患者を診察すれば算定でき、いくつかの項目は一緒に算定(併算定)が可能です。

かかりつけ医機能を評価する診療報酬の項目

表2 かかりつけ医機能を評価する診療報酬の項目
令和5年11月10日開催 第563回中央社会保険医療協議会総会資料を元に作成 

実際の外来診療での診療報酬の算定状況についてみてみましょう。こちらは主傷病が高血圧患者の令和45月診療分の算定回数をみたものです。再診料、外来管理加算、特定疾患療養管理料といった項目が多く算定されていますが、生活習慣病管理料は12.6万件とわずかな算定に留まり、糖尿病や脂質異常症患者も同様の傾向です。

高血圧患者の外来診療における算定状況

図2 高血圧患者の外来診療における算定状況
令和5年11月10日開催 第563回中央社会保険医療協議会総会資料を元に作成 

医師の調査によると、生活習慣病管理料の算定が難しい理由として、▽療養計画書を作成し、患者に対して丁寧に説明の上当該計画書に署名を受けること、▽生活習慣病管理料を算定することで自己負担額が上がることについて患者の理解が得にくいこと-が上位に挙がっており、「計画書を作成し患者の書面が必要」「高い点数が設定されており、なおかつ月1回以上の診療が要件となっており、患者負担が大きいため算定しづらい」といった課題が指摘されていました。

24年度診療報酬改定では、▽療養計画書の簡素化(電子カルテ情報共有サービスを活用する場合、血液検査項目についての記載が不要)、▽月1回以上の診療要件が廃止(概ね4カ月に1回に変更)-などの見直しが行われ、点数の引上げが行われました。また、検査等を包括しない生活習慣病管理料(Ⅱ)も新設されています。

生活習慣病管理料の概要

図3 生活習慣病管理料の概要
厚労省 令和6年3月5日版令和6年度診療報酬改定の概要【外来】資料を元に作成

また、生活習慣病管理料の評価の見直しに伴い、特定疾患療養管理料の対象疾患から、高血圧症、糖尿病、脂質異常症が除外されました。55歳から59歳の外来患者では、糖尿病、高血圧症、脂質異常症の順に医療費が高いとのデータがあり、こうした生活習慣病患者は治療だけでなく、運動、休養、栄養、喫煙及び飲酒等の生活習慣に関する総合的な治療管理が求められており、こうした対応を診療報酬で評価するという観点で、特定疾患療養管理料から切り離し、生活習慣病管理料の算定を促す対応が行われたことになります。

診療報酬改定による診療所の経営への影響

令和45月診療分のデータによれば、特定疾患療養管理料の算定回数における高血圧症、糖尿病、脂質異常症の占める割合は、それぞれ57.7%16.2%23.9%と一定数を占めており、診療所にとってこれまで算定していた項目が算定できなくなる点で大きな減収要因となります。今回の改定により、3疾患の患者を特定療養疾患管理料から生活習慣病管理料(Ⅱ)に移行した場合、点数だけ見れば108点増えていますが、外来管理加算などの併算定ができなくなるため、改定後は減収となります。3疾患の算定をすべて生活習慣病管理料Ⅱに移行できても1医療機関あたり月額18万円減収になるとの試算もあり、200床未満の病院や診療所において今回の改定で最もマイナスインパクトの大きな項目と言えます。診療方針の変更や採用薬剤の見直しなど、担当施設の動向に注意を払う必要があります。

生活習慣病管理料の評価の見直では、月1回以上の診療要件を撤廃する代わりに、リフィル処方せんの普及に向け、医療機関がリフィル処方せんの対応が可能であることを院内に掲示し、患者から求められた場合に対応することも要件に追加されています。リフィル処方せんが普及し再診回数が減少すると医療機関の減収につながります。特定疾患療養管理料に代わって生活習慣病管理料の算定への移行が進むのか、リフィル処方せんの普及を進めたい厚労省の思惑が見え隠れし、この点でも改定後の動向が注目されます。

まとめ

診療所にとって今回の改定は厳しい内容となりましたが、在宅診療については、ICTを用いた連携の推進を評価する在宅医療情報連携加算や、在宅がん患者緊急時医療情報連携指導料、地域における24時間の在宅医療提供体制の推進を評価する往診時医療情報連携加算などが新設され、在宅医療を後押しする診療報酬上の評価が行われており、今後の改定も外来医療に関する診療報酬項目の評価の見直しと在宅医療に関する診療報酬項目の評価の充実という流れが進むことが予想され、製薬企業においては、これまで以上に地域単位での患者の流れを念頭にした医薬品の情報提供の充実が求められます。

医療と介護の連携に関しては、こちらのブログをご参照ください。
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執筆者紹介

塚前 昌利
塚前 昌利
株式会社ベルシステム24 
第1事業本部 営業企画部 マネージャー
外資系製薬企業にて、MR、プロダクトマーケティング、メディカルアフェアーズを経験後、医療系出版会社などを経て、2013年より現社にてマーケティング業務を担当。
業界経験を活かし、アウトソーシングの立場で、製薬企業の市販後サービスを中心に様々なニーズを踏まえた、最適なソリューションの提案、コンサルティング等の業務に携わる。診療報酬、医療制度、医薬品適正使用、情報提供のあり方等をテーマに業界誌に多数執筆、企業等での外部セミナー講師も担当。
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会・認定登録コンサルタント
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